Sakura Infrared Photography
桜赤外を撮ってみた
昨今、春になると疑似桜なるものが流行るらしい。デジタル赤外線写真で葉をピンクに染め、それを桜に見立てるというものだ。実は葉をピンクに染めるまでもなく、デジタル赤外線写真は桜と勘違いされやすい。上の写真は2008年に写真展で発表したものだが、たくさんの来場者から「きれいな桜の写真ですね」と声をかけられた。もちろん桜ではなく、真夏の三四郎池、生い茂る緑なのだが。
デジタル赤外線写真の白い葉が桜に見える……。これは日本人の国民性といってかまわないだろう。春になると一斉に咲き誇る桜のイメージは、我々のDNAに刻み込まれているにちがいない。ちょっと脱線するが、欧米では墓地を撮ったデジタル赤外線写真をよく見かける。おそらくこれは天国のイメージなのだろう。デジタル赤外線写真はイメージそのものが非現実的なぶん、文化や宗教観が色濃く滲むのかもしれない。
さて、ここでは実際の桜をデジタル赤外線撮影してみた。疑似桜ではなくガチ桜、桜赤外である。葉が白く写るのは、赤外線を強く反射しているからだ。しかし、桜の花びらはどうだろう。赤外線を反射するなら葉と同じような写りになるし、逆に吸収するなら葉と異なる写りになる。まずはフルスペクトラム機にIR720フィルターを付けた状態で赤外線撮影してみた。
桜の花びらは明るいので、デジタル赤外線写真でも明るく写った。一見するとスノー効果(葉が白く写る現象)のようだが、果たしてそうなのか。カラースワップした葉は暖色がのる。桜の花と緑の葉をいっしょにデジタル赤外線撮影すると、桜は白、葉は暖色(ここではピンク)になった。つまり、桜の花はスノー効果で白いのではなく、単に花びらの輝度が高いから白く(明るく)写っているようだ。
より状況をわかりやすくするため、IR Chromeフィルターで桜を撮ってみた。フルスペクトラム機にこのフィルターを付けて撮影すると、緑の葉が赤く写る。これで桜と緑の葉をいっしょに写してみた。当然葉は赤くなるが、桜の花は白いままだ。厳密には花のガクの部分は赤外線を反射し、赤く写っている。桜をデジタル赤外線撮影すると、葉と異なり、あくまでも白い(明るい)花として写るのだ。
これを踏まえ、改めて桜赤外を撮ってみた。これはフルスペクトラム機とIR720フィルターの組み合わせだ。桜と緑の葉が同時に写せるシーンを撮影。梅に赤と白があるように、ピンクと白の二色桜をイメージして仕上げてみた。デジタル赤外線写真でしかなし得ないイメージだと思う。
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