CP+2023 Report for Mania
アレな人のためのCP+2023レポート

CP+2023 Report 写真・文=澤村 徹


遠くに波頭が連なる。パシフィコ横浜よ、俺は帰ってきた。4年ぶりのCP+開催である。しかし、この4年ですべてを失ってしまった。CP+といえば前日から桜木町のビジネスホテルに泊まり込み、各社ブースに登壇し、速報レポートを書き散らし、年に一度の稼ぎ時だった。ところがどうだ。ご贔屓にしてくれていた企業は一社も出展せず、記事の依頼もない。もはや俺に取材する意味はない。それでもお情けでプレスパスを発行してもらい、開場30分前にプレスの列に並ぶ。著名なカメラマン、大きなジンバルを抱えた動画班に混じり、もはや“ただの人”である俺が並ぶ。大丈夫、黙っていれば仕事で来ているように見えるはずだ。

普段は開場早々、各社ブースに駆けるのだが、何しろ4年ぶりである。オープニングセレモニーの最後列でカメラを構えることにした。壇上では業界のえらい人が話をしている。マイクの音量がアレでいまいち話の内容が耳に入ってこないのだが。それにしても話が長い。さっき係のお姉さんからもらったスケジュール表を確認する。30分も続くのか……。無理だ。そこまでは付き合えない。CP+初日の午前中、関係者のみに与えられた特権プレスタイムは、有限なのだ。一般入場者が入ってくる12時までの2時間、この間でしっかり取材しなくてはいけない。まあ、仕事じゃないんだけどな。


CP+のバナーを前ボケにして、えらい人の登壇を撮る。この場面、イメージカットにする必要があったのだろうか。


多くの取材陣が大手カメラメーカーのブースをまわるなか、斥候のごとく中小ブースを見てまわる。今年のCP+は焦点工房とKIPONが出展していないため、マウントアダプターや中国製レンズの情報が得られない。しかし、マニアでアレな人たちが好みそうなガジェットがそこかしこに展示されていた。一番の注目株はEscura Cameraのポラパックならぬチェキパック(澤村が勝手に命名)だろう。ローライフレックスやハッセルブラッドに装着するチェキ用アタッチメントが展示されていた。ハッセル用はすでにクラファンを終えて出荷中。ローライフレックス用はこれからクラファンをはじめるらしい。ローライの裏蓋をはずし、チェキパックを装着する。着脱方法はシンプルで、カメラ本体を改造する必要はない。

二眼レフ用のチェキパック。左はローライフレックス、右は海鴎。海鴎だと? 二度見してしまった。

チェキパックはドライバー不要で着脱できる。フィルムはinstax miniに対応。

ハッセル用のチェキパック。こちらはinstax miniとinstax squareに対応しているらしい。なお、ハッセル用はクラファンを終えて出荷中との話だったが、この製品に出資した知り合いはいまだ未着とボヤいていた。よくもわるくもクラファンなので、そのあたりは自己責任で。

コシナのブースで際立っていたのはNOKTON 55mm F1.2 SLIISだ。令和のご時世にニコンFマウントの新製品に出会えるとは。Ai-sでは不可能といわれたF1.2スペックというチャレンジもすごい。キヤノンRFマウントのNOKTON 50mm F1 Asphericalも意外だった。当初、VMマウントで登場したこのレンズ、ニコンZ、キヤノンRFと順調に製品バリエーションを増やしているのだが、なぜかソニーEマウントがない。個人的には買うならVMマウントと心に決めているので、特に困ることはないのだが。


ニコンFマウントのNOKTON 55mm F1.2 SLIIS。F5.6を正面にセットして展示されている。ニコンのレンズはF5.6を正面にしてブツ撮りしないと怒られる(どこから?)と先輩に教わった。

ソニーEマウントではなく、キヤノンRFマウントのNOKTON 50mm F1 Aspherical。ニッチ市場の複雑さを感じさせる展開だ。

NOKTON 50mm F1 Asphericalはいずれ買うつもりなのだが、なかなか手を出せない理由がこれ。VMマウントのNOKTON 21mm F1.4 Asphericalだ。次に買うコシナはこのレンズと決めている。レビューのために借りて使ったことがあるのだが、写りはサイコー。しかもフードがかっこいい。こいつをライカM8につけて赤外線写真を撮るのが夢。

サイトロンジャパンのブースではLAOWAの参考出品がやばかった。広角28ミリでF1.2だよ。意味がわからない。速攻ツイートしたら、星夜撮影に良さそうとリツイートされていた。なるほどそういう用途があるのか。とかく尖ったレンズの多いLAOWAだけど、トンデモスペックがちゃんと“使える”状態で製品化されているのがいい。


参考出品のLAOWA Argus 28mm F1.2 FF。念のため、APS-C用じゃないよ。フルサイズ対応だからね。ほんと常軌を逸してる。

一般入場がはじまった途端、LAOWAコーナーはたくさんの人で埋まった。LAOWA、人気あるんだなあ。

昨今、フィルターが復調の兆しだ。デジタルになってフィルター不要説が囁かれていたけど、最近はオールドレンズ風に撮れるミスト系や色をかぶせるレトロ系で人気を盛り返している。CP+初参加となるKANIフィルターはその最右翼ともいえるだろう。著名な写真家とコラボして、オリジナルフィルターを展開しているのが特徴。ただ、澤村の興味はそこではなくて、赤外線フィルターだ。これまで国内で買える赤外線フィルターはケンコーのPRO1D R72が鉄板だった。KANIフィルターはIR580/720/850と波長別の赤外線フィルターを展開。ついにようやく、日本国内でも波長別の赤外線フィルターが買えるようになった。赤外やってない人にはまったくもってピンとこないだろうけど、ほんとこれ、快挙なんですよ。なにしろこれまで、フィルターと同額程度の送料をかけてB&H(アメリカのカメラ量販店)から買ってたんだから。


KANIフィルターは中国製だが、日本側で監修して個性的なフィルターを展開する。

波長別の赤外線フィルター。IR580/720/850の3種類を展開。フィルター径は純正ズームレンズ向けの大口径が多い。澤村のオススメはIR580。黄色やオレンジの葉が撮れる。

銀一のブースで興味深かったのは3 Legged Thingという三脚ブランド。オレンジとブルーという色使い、そしてデザインがかっこいい。各パーツが着脱可能になっていて、普通の三脚を卓上三脚にしたり、伸縮するセンターポールを取りつけたりと、用途に応じてカスタマイズできる。イギリスの会社で、生産はアジア圏とのこと。だいぶキワモノっぽい製品だが、銀一が代理店になっているということは、精度や強度はそこそこしっかりしているのだろう。


3 Legged Thingの雲台。なかなかデザインリッチだと思う。ただ、ユニオンジャックを見て、かつてパンク小僧だった若かりし血が騒いだ説は否定できない。プリリーベイカンチャ。

透明なアクリルチューブは着脱可能部分を示している。カーボン製だけどそこそこ重量があり、設置した際の安定性を考慮したという。

プリント系でおもしろかったのは川並鉄工だ。黒いアルミ板を削って像を表現する。印刷というより彫刻に近い。削る幅や深さでコントラストを表現するのだが、写実的な表現に加え、ラインアートのような表現も可能。コントラストや奥行きを平面でどう見せるか、という点にこだわっているという。写真の彫刻的表現とでもいえばいいのか。基本的に大判出力が前提で、A4一枚といったオーダーには対応していないらしい。小さいサイズでもまとまった枚数なら対応するとのこと。写真展の販売用プリントとかで活用できるか。いや、そもそも個展でプリントがそんなに売れた試しがないな……。


このパネルが横幅2メートルぐらいの大きさ。こうした目の細かい出力だと、20万円ほどだという。出力時間は16時間ぐらいかかるらしい。

板面をクローズアップしてみた。削り方で濃淡を付けているのがわかるだろう。ちなみに、JPEGの写真でオーダーできるという。

ラインで立体感を表現した例。こういう目の粗い加工なら、この大きさで8万円ぐらいとのこと。

会場でやけに目立っていたのがこのBi Rod。ドローンに負けない物干し竿もとい、ロング一脚だ。最長11.5メートルまでいけるらしい。でもまあ、どうせGoPro用でしょ、とタカをくくっていたのだが、よく見たらポールの先端にα7が載っていた。侮ってすみません。カーボン製というが、縮めたものを持ち上げたところ、けっこうな重量だった。最大まで伸ばそうものなら、それこそ応援団旗を支えるどころの騒ぎではない。一応、専用の三脚が用意されており、安定した運用が可能らしい。ドローンなしでオールドレンズ高所撮影とか、憧れる。


鯉のぼりとか国旗掲揚にもってこいのロング一脚。ドローンが禁じられている場所で、果たしてこの一脚ならOKが出るのか。動画界隈をお騒がせするかっこうのツールにならないことを祈る。

見上げると、ポールの先にα7シリーズが載っていた。マジか、GoProじゃないのか。

Loupedeckは前々から気になっていたのが、極力見ないようにしていた。Lightroomや動画制作など、クリエイティブ系ソフトの物理インターフェイスで、こいつに触れたらもうマウスに戻れない自信がある。地方ロケ先でLightroomを操作する機会も多く、あまり便利すぎるガジェットもどうかなあと。今回意を決して説明を聞いてきたのだが、案の定、便利すぎて人がダメになるタイプの製品だった。デフォルトでガシガシ使えるタイプと、自分でゴリゴリにキーアサインして使うタイプと、いくつかバリエーションがある。買うならデフォルトで使えるタイプだなと鼻息が荒い。


キーボードサイズのLoupedeck+は、特にカスタマイズしなくてもLightroomを物理コントローラーで操作できる。買うならこっちだな。五十を過ぎると、何をキーアサインしたのか忘れてしまうのだ。

今回は会場内でライカカメラジャパンの人たちを何度か見かけた。これは異例のこと。澤村が知るかぎり、ライカはCP+にブース出展したことがない。CP+でライカの人を見かけたこともない。フォトキナがなくなり、何か変化があったのだろうか……と思ったが、全然ちがった。何のことはない、パナソニックのステージでドイツ本国のえらい人がスピーチしていた。そう、Lマウントアライアンス。世の中に不思議なことなどひとつもない。ありとあらゆることに理由がある。世界の真理に触れた気がした。


Lマウントアライアンスのスピーチでライカのえらい人が。来年、CP+会場でライカSLにタッチアンドトライできたりするのだろうか。

カメラバッグを物色している人は、CP+会場からちょっと足を延ばしてみてほしい。ドックヤードガーデン横のBUKATSUDOにて、ビリンガムの展示会が行われている。主催は代理店のオリエンタルホビー。大小15種類のバッグを展示しているという。隣のギャラリーでハービー・山口さんの写真展もやっていた。CP+の帰りに立ち寄ってみてはどうだろう。


展示会なのでその場でお持ち帰りはできないが、予約はOKだったはず。ビリンガムのカメラバッグは一生モノ。

出版社コーナーではカメラホリックが初参戦。カメラホリックは創刊からお手伝いしている媒体だけに感慨もひとしおだ。もちろんこの場で購入可能。澤村が同社から出している本はすべて並んでいた。ちなみに、「オールドレンズはバベルの塔」は「GR DIGITALカスタムブック」以来の奇書だから、みんな買ったほうがいいと思う。


カメラホリックから出たカメラ本はすでに24冊。いつの間にかけっこうな数に。初日は「オールドレンズ解体新書」がほぼ完売だったらしい。

初日の17時半から、赤城耕一先生とカメラホリック編集長のトークショーあり。トーク自体は配信ブースの中で行われ、外には一切声が漏れない。ブースに貼ってあったQRコードでYouTubeに飛び、スマホを耳に当てて音声を聞きながらブースを見るというよくわからない事態に。配信タイムラグのせいで、いっこく堂の衛星中継状態だった。

この日は結局、朝イチプレスタイムから蛍の光が流れるまで会場にいた。4年前にくらべてブースの数は減ったが、通路にはお客さんがあふれ、身動きがとれないほどの時間帯も。当然だが、リアル開催はいいな。晩、赤城耕一先生とみなとみらい駅までご一緒し、作例撮りのロケ代を安い原稿料からどうやって捻出すればいいのか(否できない)問題を確認し合い、帰路についた。みなさん週末、CP+を楽しんできてください。