Bambi Quilting Guidi Camera Strap
ファッションという文脈でストラップを読む
話は2016年に遡る。CP+会場のとあるブースで猛烈な既視感に襲われた。そのブースはBAMBIという時計バンドで有名な会社だ。時計バンドの製造ノウハウを活かし、カメラアクセサリーのオリジナル商品を展開していた。カメラストラップ、カメラバッグ、カメララッピングなどが並ぶ。それらに用いているレザーが、猛烈な既視感を放つのだ。ただ、既視感の理由がわからない。カメラとまったく無縁の何か。記憶の引き出しを開けていくが、どうしてもたどり着けない。思い違いだったか? それなのに、目の前のカメラストラップを見ると、既視感が両腕を広げて抱きついてくる。展示商品のそばにレザーについての解説文があった。GUIDIという高級レザーを使っているという。GUIDI、その言葉が唐突に既視感を紐解いていく。
独身時代、着道楽に堕ちたことがある。重度のファッションオタクだ。ハイファッションブランドを好むのではなく、斜め上を行くニッチなブランドに収入のほとんどを費やした。GUIDIは、そんなニッチなブランドの御用達のタンナーだった。カルペディエム、キャロルクリスチャンポエル、この両ブランドが代表格だろう。異様なほどにマテリアルにこだわるブランドで、ややもすると偏執狂的ですらあった。マテリアル自体が強烈な個性を放ち、それを原理主義的に服や靴へと変容させる。そんなブランドが好んで使っていたのがGUIDIレザーだ。薄く曇ったような微光沢、それでいて透明感があり、鏡面の奥に引き込まれそうになる。一度見たら忘れられない表情のレザーだ。BAMBIのカメラストラップは、そんなGUIDIレザーを惜しげもなく使っていた。なるほど、既視感に襲われるのもうなづける。最新デジタルカメラの祭典CP+会場で、ファッションオタクだった自分の記憶と出会うとは思わなかった。
翻って2018年のCP+、今年もBAMBIのブースにはたくさんのGUIDIレザーストラップが並んでいた。中でも惹き付けられたのが、このキルティングGUIDIカメラストラップだ。遠目ではよくある編み目状のステッチだが、手に取ると、ちゃんと中綿が入っている。そう、れっきとしたキルティング仕様なのだ。GUIDIレザーの鈍い光沢が、キルティング特有の凹凸感を強調する。その佇まいはさながらライダースジャケットのショルダーパッドだ。使い込まれたルイスレザーのスーパーモンザを思い出したのは、果たして筆者だけだろうか。ライダースモチーフがデザイン案にあったような気がしてならない。
BAMBIのカメラストラップは、けっしてレザーありきではない。GUIDIレザーの採用は突出した個性のひとつだが、そこにおんぶにだっこというのではなく、カメラストラップとしての快適さを追求している。それがよくあらわれているのが裏革の仕様だ。裏革はスエード調の人工皮革を用いている。見た目と手触りはスエードそのもので、人工皮革と言われなければ気付かないレベルだ。メーカーに取材したところ、高価な素材だが、あえて採用しているという。肌触りが滑らかで、色落ちや色移りの心配がない。BAMBIは時計バンドのトップメーカーだけあって、こうした肌と接触する部分については高度なノウハウが活かされている。また、撮影時の滑り止め効果も絶妙だ。スエード調なので適度な摩擦があり、肩からズリ落ちない。その一方で、斜め掛けでカメラを構えるとき、引っかかりなくスルリとストラップが動いてくれる。止めることも滑らすこともできる、絶妙な摩擦力だ。
BAMBIの本業である時計バンドは、腕に巻くレザーと金具という小さな宇宙に、機能性、装飾性、トレンドなど、様々なファクターを積層していく。それはカメラストラップにも通ずる世界観だ。1メートル前後のレザーと留め具、このシンプルな小宇宙で何を表現するのか。BAMBIのカメラストラップは、GUIDIレザーという突き抜けたマテリアルが軸にある。そのレザーにまつわるファッションという文脈が、他と一線を画した魅力だ。カルペディエム、キャロルクリスチャンポエル、m.a+、インカネーション、これらのファッションブランドに反応する人なら、BAMBIのカメラストラップの深みに気付けるだろう。