Ulysses α7III Body Suit
変わらないためのこだわりカルト級
ユリシーズのα7IIIボディスーツは、あえてカルトと呼びたい。本製品は前作同様、ケースを装着したままバッテリーとメモリカードが交換できる。α7IIで同社のケースを使っていた人にとって、同様の環境をα7IIIでも構築できるわけだ。こう記すと、さも当然のことのように思えるが、実はこの「前作同様」という機能性を実現するために、ユリシーズは偏執狂的な工夫を随所に凝らしている。本稿では、そのカルトなまでのこだわりを紐解いてみたい。
α7IIIは従来機α7IIよりもバッテリーサイズが大きくなった。そのため、グリップ底部のほぼ全面がバッテリー交換の蓋、という容赦ない設計になっている。従来同様のスタイルを貫くには、レザーケースの底蓋を大型化しなくてはならない。しかし、底部が大きく開閉する構造は、グリップ部の強度を犠牲にする。ここでとるべき道は3つ考えられる。
1つ目は最近流行りの底面のプレート化だ。金属や樹脂を使い、バッテリー交換穴を空けたプレートを成型。これを底面として使う。中国や韓国のカメラケースメーカーがよく用いている手法だ。十分な強度を保ちつつ、バッテリーにイージーアクセスできる。2つ目は底蓋開閉の断念である。ケースはそもそもカメラの保護が目的だ。利便性よりも強度を優先したとて、後ろ指を指されることはない。そして3つ目は、底蓋開閉とグリップ強度を創意工夫で両立するイバラの道だ。ユリシーズはあえてイバラの道を選んだ。
ではどうやって、大型化した裏蓋とグリップ強度を両立したのか。実はブレイクスルーがあったわけではない。地道にサイズを整え、微妙な不具合をひとつずつ直し、ただただ愚直に機能的なレザーケースを目指す。おそらくα7IIボディスーツを使い込んだ人ですら、その明確なちがいに気付けないだろう。微細な調整を積み上げた結果、裏蓋開閉を保ちつつ、従来よりも強度が向上したという。褒め言葉として言わせてほしい。デザイナーのカルトなまでの執念、まったくどうかしている。
変化で賞賛を得ることはたやすい。しかし、現状維持で評価されることは稀だ。目に見えるちがいは評価対象になりやすく、現状維持は怠慢に映る。ただ、思い出してほしいのだ。平穏な日常も、その裏にはさまざまな応酬がある。平穏を保つたゆまない努力があってこそなのだ。ユリシーズのα7IIIボディスーツは、平穏を保つ努力の結晶である。