Lumière camera M240 aging custom
真鍮LOVEが止らない

Lumière camera M240 aging custom 写真・テキスト=澤村 徹

 

ブラックペイントのエッジから、真鍮の鈍い光沢が顔を見せる。長い年月を経たカメラの表情は、どうしてもこうも美しいのだろう。視覚化された時間の積層、とでも言えばいいのか。真鍮のチラリズム。一部の男性諸氏にとって、それはどんなポルノよりも破壊力絶大だ。

ライカMタイプ240は地金が真鍮だ。一年も使っていれば、軍艦部や底部のエッジから真鍮が顔をのぞかせる。メーカーカスタムとしていわゆるレニクラモデルが登場し、そのことは広く知られるようになった。翻って筆者のライカMタイプ240は、いつもケースを着せているため、なかなかエイジングが進まない。そこでライカカスタムで有名なルミエールカメラに相談してみた。

 

後処理によって、エッジの真鍮出しを行う。ここでは便宜上エイジングと呼んでいるが、模型関係ではこの手の作業をウェザーリングという。

 

ルミエールカメラにとって、エイジング(ウェザーリング)加工はお手のモノだ。フィルムライカのエイジングは正規メニューにある。これまで筆者も、沈胴エルマー、真鍮製のフィルター枠やマウントアダプターのエイジングをお願いしてきた。ただし、デジタルM型ライカだけはちょっと事情が異なる。

フィルムライカの場合、カメラを分解してパーツ単位で処理を行う。オーバーホールのついでに塗装とエイジング加工を頼む、といった具合だ。しかしデジタルM型ライカの場合、分解ができない。組み上がった現物のまま表面に加工を施していく。すべての隙間にマスキングして作業することになるが、リスクがゼロとは言い難い。そのためルミエールカメラでは、デジタルM型ライカの表面加工は積極的に受けていないのが実情だ。

 

背面ダイヤルをまわりはエッジが多く、真鍮の露出がたまらなく美しい。シューカバーとソフトレリーズボタンはJAY TSUJIMURA製だ。

 

そうした事情を踏まえつつ、今回は特別にライカMタイプ240にエイジング加工を施してもらった。依頼にするにあたり、以下の3点をリクエストした。

●レニクラモデルは参考にしない
メーカーカスタムのレニクラモデルはかっこいいのだが、エイジングしてあることをわかりやすく示している印象がある。有り体に言うと、やり過ぎ感は否めない。そこでレニクラモデルに似せないことを条件にした。

●筆者の使い方にそったエイジングを
筆者のホールドスタイルを詳しく伝え、それにそったエイジングを施してもらう。エイジングはいわばマーキングのようなものなので、パーソナライズをしっかりと行いたい。

●ルミエール流でよろしく!
フィルムライカのエイジングはルミエールの十八番。大原則として、ルミエール流エイジングカスタムでお願いしたい。

完成品を受け取り、エイジングの絶妙さに感動した。寸止めとムラ感がまさに職人芸なのだ。レザーと同様、金属のエイジングも過ぎたるものは汚らしくなる。エイジングは要は使用の痕跡なので、過度のエイジングは「他の人が使った」感じが前面に出てしまうのだ。今回ルミエールカメラのお願いしたライカMタイプ240は、遠目からもエイジングしていることがわかりつつ、けっしてやり過ぎていない。この寸止め具合がすばらしい。

 

筆者は眼鏡使用なので、ファインダーまわりは元々塗装が剥げていた。今回のエイジング加工でさらに露出領域を増やしてもらった。

 

カメラを置くときにこの角から接地させる癖があり、加工前からそれなりに地金が顔を出していた。この部分も多めに露出してもらった。

 

加えて、真鍮の露出に適度なムラがある。エイジング加工は耐水ペーパーなどで根気強く磨きをかけていくのだが、作業効率を優先すると、どうしても画一的な表情になりがちだ。今回の仕上がりはどの部位も自然なムラがあり、長年使い込んだ雰囲気が伝わってくる。このていねいな仕事ぶりこそがルミエール流だと実感した。なお、エイジング加工の料金だが、加工内容で金額が変わるという。今回と同程度のエイジングなら40,000円だ。

 

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