G Biogon T* 21mmF2.8
周辺像の流れを光学補正する
レンジファインダー機の超広角レンズは、フルサイズミラーレス機にとって鬼門だ。α7シリーズに付けると、周辺部にマゼンタかぶりと像の流れが発生する。マゼンタかぶりは画像編集ソフトで補正できるが、周辺像の流れは手の施しようがない。ところが、この周辺像の流れをたった1枚の補正レンズで改善できるという。海外サイトを中心に話題になり、日本のオールドレンズファンの間でもジワジワと試す人が増えている。本当に補正レンズで周辺像の流れを改善できるのか。早速試してみた。
●補正レンズで周辺部が結像
まず、本稿のトップ画像を見てほしい。α7IIにG Biogon T* 21mmF2.8を装着し、さらにビオゴンの先端に補正レンズが載っている。この補正レンズの正体は後ほど詳しく解説するが、論より証拠、試写結果からご覧いただこう。
上が補正レンズなしの素の状態でのカット、下が補正レンズを付けたカットだ。とりあえず、補正レンズの有無を問わず、周辺部の色かぶりは発生したままだ。全体の画質についても、大きなちがいはないように思える。では、周辺像はどうだろう。
画像左下の鉄塔をクロップした。上の補正レンズなしのカットは像が流れている。α7シリーズにショートフランジ超広角レンズを付けた際のありがちな画像だ。翻って、下の補正レンズありのカットは隅々までしっかりと結像している。α7IIで、しかもG Biogon T* 21mmF2.8で、この周辺解像力だ。マゼンタかぶりは相変わらずだが、周辺像はたしかに結像している。この補正レンズ、たしかに効果があるようだ。
●平凸レンズで収差を相殺
それでは種明かしだ。この補正レンズとは平凸レンズ(片面が凸、もう片面がフラットなレンズ)だ。なぜ平凸レンズで周辺像の流れが改善するのか。端折って言うと、平凸レンズで収差を相殺し、周辺画質を改善したということになる。α7シリーズはイメージセンサー前面のフィルターに厚みがある。このフィルターの厚みが像面湾曲の原因になり、周辺像の流れを引き起こしているという見方が最近強まっている。デジタルM型ライカはこのフィルターを極力薄型化し、超広角レンズの周辺画質改善に努めてきた(ライカM8ではセンサー前面のIRフィルターを薄くしすぎて、UV/IRフィルターを外付けするハメになったが)。Kalari Vision(赤外改造で有名な海外業者)では、オールドレンズ向けにα7シリーズのフィルターを薄型フィルターに交換するサービスを提供しているほどだ。とにもかくにも、イメージセンサー前の厚いフィルターを厄介、という見解が浸透しつつある。要点をまとめると、以下のようになる。
・周辺像の流れは像面湾曲という見解
・イメージセンサー前の厚みのあるフィルターが原因
・平凸レンズでこの収差を相殺
●Gビオゴン補正レンズの作り方
テクニカルな話はさておき、平凸レンズの追加で周辺像が結像したのは事実だ。ここからは補正レンズの組み立て方を見ていこう。なお、ここで解説するのは、G Biogon T* 21mmF2.8の補正レンズの組み立て方だ。マスターレンズによって用意するものが異なるので注意しよう。繰り返しになるが、α7IIでG Biogon T* 21mmF2.8を使うための補正レンズの組み立て方法である。本稿ではこれをGビオゴン補正レンズと呼ぶことにする。
Gビオゴン補正レンズは、すべて市販のアイテムで組み立てられる。平凸レンズはガラス玉が剥き出しになっているので、これをステップアップリング類で挟み込み、G Biogon T* 21mmF2.8の先端にねじ込んで装着できるようにする。工具は一部の作業でカニ目レンチが必要になるが、それ以外はすべて手作業で済む。旋盤のような特殊工具は不要だ。とりあえずは、以下の4つのアイテムを用意しよう。
【ケンコー製52→58mmステップアップリング】
平凸レンズを上から抑え込む役割だ。ここではケンコー製を用いているが、レンズ上面を固定できるのであれば、他社製でもかまわない。
【シグマ光機 SLB-50-1500PM(平凸レンズ)】
焦点距離1.5m、50mm径の平凸レンズ。凸面をG Biogon T* 21mmF2.8の前玉側に向けて取り付ける。レンズの凸面は外観からではわかりづらい。レンズ面に定規を押し当て、定規が真っ直ぐに付く面が平面、定規がレンズの一部にしか付かない面が凸面だ。
【マルミ製55→52mmステップダウンリング】
このリングの内側に平凸レンズを落とし込む。言わば平凸レンズの鏡胴だ。マルミ製のステップダウンリングは内側の上から下まですべてねじ切りが施してあり、この仕様がGビオゴン補正レンズの組み立てではとても重要だ。
【カニ目52mmリング(Amazon basic UVフィルター52mmから取得)】
マルミ製55→52mmステップダウンリングの底部に取り付け、平凸レンズが抜け落ちないように支える。フラットな面がレンズと接するようにマルミ製55→52mmステップダウンリングに装着しよう。なお、カニ目リングは市販品がないため、Amazon basic UVフィルター52mmから外したものを使用した。このカニ目リングをフィルター枠から取り外す際、カニ目レンチが必要となる。
以上、必要なアイテムを組み立て時の上から順に列挙した。平凸レンズをステップアップリングとステップダウンリングで挟み込む構造だ。組み立て手順は以下の解説カットを見てほしい。
●無限遠と画質劣化の心配は?
さて、レンズの上にもう1枚レンズを追加するわけだが、解像力以外の描写変化について見ていこう。まず、無限遠は大丈夫だろうか。この点についてはデジタルならではの隠しワザが使える。KIPON製のCONTAX Gマウントアダプターを使えば良い。このマウントアダプターはかなりオーバーインフに設計されているため、Gビオゴン補正レンズを付けた状態でも問題なく無限遠にピント合わせできる。Gビオゴン補正レンズとKIPONのCONTAX Gマウントアダプター、このカップリングがオススメだ。
全体の画質はどうだろう。Gビオゴン補正レンズ付きのカットは、オリジナルの状態よりもハイライトが若干強くなる。そのため階調表現に多少のちがいを見て取れるが、じっくり観察してかろうじてわかる程度だ。G Biogon T* 21mmF2.8本来のテイストはちゃんと残っており、画質劣化を気にするほどではない。以下、Gビオゴン補正レンズ付きで撮った一般作例を載せておく。十分に実用的な画質であることがわかるだろう。
平凸レンズによる周辺画質補正、論理面はちょっと難しいが、確実に効果が見込め、しかもマスターレンズのテイストもさして損なわない。ちなみに今回、すべてのアイテムを新品購入したが、それでも1万円をちょっと超えた程度に収まった。気軽に試せるオールドレンズ・プチDIYである。
ただし、そうは言っても、オールドレンズに別途レンズを追加する行為に抵抗をおぼえる人もいるだろう。このとき、出力サイズがひとつの目安になる。たとえば、作品発表の場がSNSということなら、正直なところGビオゴン補正レンズを使うまでもない。画像は長辺1000ドット未満だろうから、素のままのG Biogon T* 21mmF2.8の画像でもアラが見えないはずだ。では、写真展のように大きくプリントする場合はどうか。これは素のままだとさすがに周辺部の甘さが目に付いてしまう。このときこそGビオゴン補正レンズの出番だ。隅々までしっかり解像した画像なら、A3サイズ以上のプリントも安心だ。最終出力形態に合わせて、Gビオゴン補正レンズの導入を検討してみてはどうだろう。
【参考リンク】
RANGEFINDER WIDE ANGLE LENSES ON A7 CAMERAS: PROBLEMS AND SOLUTIONS