Forever EOS-1D Mark III
なぜ15年も使い続けたのか

EOS-1D Mark III 写真・文=澤村 徹

 

ブツ撮り用機材として使ってきたEOS-1D Mark IIIを、ついに引退させることにした。APS-Hセンサーを採用した1010万画素機。2007年に購入し、約15年にわたって書籍や雑誌用のブツ撮りに使ってきた。2008年出版の「オールドレンズ・パラダイス」を皮切りに、ムック本「オールドレンズ・ライフ」シリーズ、ウェブ連載「デジカメドレスアップ主義」、直近では「カメラホリックレトロ」や来週発売の「オールドレンズマジック」に至るまで、すべてこのEOS-1D Mark IIIで撮影してきた。

1台のデジタルカメラを15年にわたって使い続けることは、けっして平坦な道のりではなかった。USB端子まわりの故障、イメージセンサーの交換、メインレンズのEF 24-70mm F2.8L USMも一度修理に出した。α7R IVやGFX50S IIを買い、リプレイスも考えた。それでも結局、今日の今日までEOS-1D Mark IIIを使い続けた。なぜ、そんなにもEOS-1D Mark IIIにこだわるのか。もちろんそれには理由がある。

 

 

僕のメインの仕事は書籍や雑誌の記事制作だ。よって、写真の最終アウトプットは商業印刷になる。この仕事をはじめた当時、先輩カメラマンから「カメラはキヤノンが安パイ」と聞いていた。その一方で、あるカメラ雑誌の編集者から「某社のカメラで撮った写真は必ずひと手間加えて入稿する」という話を耳にした。カメラ選びは最終的な印刷の仕上がりに直結する。色再現性は最重要課題だ。キヤノンのフラッグシップモデルなら日本中、世界中のプロが使っているわけだから、商業印刷で不安はあるまい。これがEOS-1D Mark IIIを使い続けたもっとも大きな理由だ。

ただそうはいっても、15年間も使い続けることはないじゃないか。1Dシリーズ自体も進化しているし、α1やEOS R3というフラッグシップミラーレスもある。前述した故障に遭ったとき、もちろん買い替えを検討した。しかし、どうしても踏み切れない。とある編集者のひと言が、買い替えを思いとどまらせるのだ。

カメラ雑誌の編集者だった彼は、あるとき電話口でこういった。「澤村さんのブツ撮りって画質いいですよね」と。ブツ撮りの出来を褒めているのではない。画質を褒めている。とりようによっては失礼な話だが、僕はうんうんと電話口で大きく頷いた。そう、EOS-1D Mark IIIは画質がいいのだ。ブツ撮り画像は納品前に軽くレタッチするのだが、階調がビクともしない。先の編集者も僕が納品した画像をPhotoshop上でだいぶいじめたらしく、その耐性に驚いていた。画像データとしての厚みとでもいおうか、この余裕が1D系はダントツなのだ。他社ミラーレスをリプレイス前提で使ってみたこともあるが、レタッチした途端に画質が崩れ、仕事で使うのは難しいなあと感じた。無論、最新機種にもっとすぐれたカメラがあることは理解しているが、現状、高評価を得ている環境をわざわざ崩すのは勇気がいるものだ。

 

 

さて、この記事の写真は新しいブツ撮り担当カメラで撮っている。もったいぶることもあるまい。EOS R6が今後のブツ撮り担当だ。前々から気になっているカメラで、今回仕事の都合でEOS R6が必要になり、思い切って購入した。世間的にはEOS R5を使うプロが多いと思うが、僕はEOS R6一択だ。EOS R6はEOS-1D X Mark IIIのイメージセンサーがベースになっているという。さんざんお世話になった1D系列のセンサーだ。期待せざるを得まい。実際にブツ撮りしてみて、後処理やライティングを微調整する必要がありそうだが、少しずつ詰めていけばいいだろう。いまのところ順調だ。

 

 

そんなわけで、お疲れ様、EOS-1D Mark III。2007年から今日までありがとう。