Light Lens Lab E 50mm F2
周エルカンのプロトタイプを試写
周八枚で鮮烈デビューしたLight Lens Lab、その第2弾となる周エルカンのプロトタイプを実写する機会があった。ここでいう周エルカンとは、Elcan 50mm F2の復刻レンズだ。そう、軍用ライカについていたレンズである。
Elcan 50mm F2について簡単に説明しておこう。ライカM4をベースにしたKE-7Aという軍用ライカがある。カナダライツが製造し、アメリカ軍に納品されたカメラだ。このカメラ用に作られたレンズがElcan 50mm F2というわけだ。Elcanは「Ernst Leitz Canada」の略称で、50ミリF2以外に66ミリF2などがあった。軍用レンズということで人気が高く、加えて生産数が少なかったのできわめてレアだ。現在は途方もない値段のうえに、そもそも現物をめったに見かけることがない。そんな超マニアックなレンズを復刻したのが周エルカンである。
まず外観から見ていくと、周八枚と同様に、オリジナルの意匠を巧みに再現していた。フォーカシングレバーの位置がちょっと異なるが、これは近距離側での使いやすさを考慮し、無限遠側のスタート位置を9時方向にしたそうだ。メーカーなりの工夫というわけだ。エルカンは絞りリングのツメの形状が独特で、これをちゃんと踏襲している点はライカマニアの琴線に触れるのではないか。
描写については賛否両論、いろいろな意見が飛び交うことになった。というのも、軍用レンズという言葉がどうやらひとり歩きしているようなのだ。軍用カメラKE-7AについていたElcan 50mm F2は、まごうことなき軍用レンズだ。ミルスペックという言葉の影響もあるのだろうか、「軍用レンズだからよく写るはずだ」と期待する人が少なくない。ただ、冷静になってほしい。Elcan 50mm F2は4枚玉、エルノスター型のレンズだ。
オールドレンズファンならご存知の通り、エスノスター型は「低コストで大口径化」できるレンズ構成だ。トリプレットに1枚ガラス玉を追加し、貼り合わせなしの4枚構成で気持ち明るいレンズが作れる。トリプレットだと50ミリF2.8が限界だが、エルノスターなら50ミリF2.2までがんばれる、とまあそんな感じだ。中心部こそシャープなものの、周辺は甘く、その甘さがどうにも儚げでオールドレンズファンに人気だ。
こうしたレンズ構成を踏まえると、「エルカンは軍用レンズだからすごい」的な評価はどうも怪しくなってくる。ちなみに、巨匠クラスのライカユーザーに話を聞いたところ、これまで2本のエルカンを使ったものの、いまひとつ好みではなかったと言葉を濁していた。やはり4枚玉は4枚玉なりの写りということなのだろうか。
さて、プロトタイプの周エルカンで実写してみると、よくもわるくも4枚玉だなと実感できた。開放は周辺部に甘さが残る。しかし、F5.6まで絞ると広範囲にわたって解像力の高い写りを見せてくれた。ただ、それでもガッチガチということではなく、「ガラス玉4枚のわりによく写るよね」といった感じだ。一方、エルノスター型で開放F2というスペックは希少性がある。通常なら無理を感じるスペックだが、そのわりに開放描写で派手に崩れることもなく、後ボケも常識的なテイストだ。エルカンというレンズが、4枚玉としては相当がんばっていたことをうかがい知ることができる。
エルカンは軍用レンズという性格上、あえて貼り合わせ面のない4群4枚のエルノスター型を採用したのだろう。貼り合わせがなければ過酷な状況で使っても故障や劣化が少ない。トリプレットよりは明るく、絞り込めば申し分ない解像力を示す。周エルカンを使っていると、そんなオリジナルの背景に思いを馳せたくなる。発売はもうしばらく先になるだろうが、楽しみなレンズだ。
※本稿は試作品によるレビューです。製品版では仕様が異なる場合があります。
※2021年8月30日/フォーカシングレバーのスタート位置について、メーカーの意向を反映しました。