GIZMON Utulens
オートフォーカス「写ルンです」を夢見て
富士フイルム「写ルンです」のレンズはちょっとしたレジェンドだ。プラスチック製の単玉、正真正銘の1枚玉である。プラスチックレンズなのに写りが良く、しかも35ミリ判換算32ミリという広角仕様。わざわざ改造してミラーレス機に付ける人がいるほどだ。ならばいっそ製品化してしまえ、というノリで登場したのが「写ルンです」のリメイクレンズ、GIZMON Utulensだ。
GIZMON Utulensは35ミリ判換算32ミリ、絞りはF16固定だ。ピントリングはなく、パンフォーカス仕様である。本家「写ルンです」同様、シャッターボタンを押す以外、撮影者にできることがない。GIZMON Utulensは各種ミラーレス機のマウントに対応しているが、よくよく製品構成を見ると、レンズとL39マウントアダプターのセット商品になっている。樹脂製のL39マウントユニットに「写ルンです」のレンズを組み込み、L39マウントアダプターを経由して各種ミラーレス機に装着するわけだ。ここで良からぬことを思い付いた。レンズ部にLMリングを付けてライカMマウント化し、TECHART LM-EA7に装着する。さあ、オートフォーカス「写ルンです」の完成だ。
普段、LM-EA7は「スポットS」で使うことが多いのだが、GIZMON Utulensとの組み合わせではうまく反応しなかった。GIZMON UtulensはF16相当のレンズなので、光量的に厳しいのかもしれない。AFモードを「ワイド」に設定すると、それなりに合焦ランプが点るようになった。ただ、そもそもF16固定のレンズなので、ボケを楽しめるわけでもなく、ほぼ全域にピントが合っているため、果たしてオートフォーカス化のメリットがあるのかどうか、何とも微妙な印象だ。とは言え、ピクセル等倍でチェックすると、狙った被写体をピントの芯で捉えている。オリジナルの「写ルンです」のようにF10相当の絞りなら、もう少しボケを感じられただろう。いっそ、LM-EA7向けに絞りプレートを取り除いてレンズユニットだけ販売してくれないだろうか。
ちなみに、F16まで絞り込まれているため、イメージセンサーのダストの写り込みは大変なことになる。これは覚悟した方がいい。普段、デジタルカメラのスナップ撮影はどんなに絞ってもF8止まりにしている。それでも相当ゴミが目立つのに、F16である。青い空と白い壁は鬼門だ。
さて、描写について見ていこう。評判通り、「写ルンです」のプラスチックレンズは本当によく写る。ひと言でいうとコントラストの付き方が良い。以前、ホルガのプラスチックレンズをデジタル一眼レフに付けて使ったことがあるのだが、これはコントラストが低くて好みではなかった。無論、ゆるい描写を求めてプラスチックレンズを使うわけだが、ローファイなら何でも良いというわけではない。その点、GIZMON Utulensはしっかりとメリハリが付き、順光では色ノリよく、中心部はまずまずの解像力を備えている。加えて、逆光では程良くシャドウが持ち上がり、しかも紫がかぶる。紫のフェードと言えば伝わりやすいだろう。無加工でこのエフェクトをものにできるのはおいしい。
試写後、どうしても気になったのがF16という仕様だ。オリジナルの「写ルンです」はF10だ。デジタルで使うことを思うと、F16という仕様はあまりにメリットが乏しい。回折現象で解像力が落ちるし、イメージセンサーのダストの写り込みも尋常ではない。GIZMON Utulensはミラーレス機向けのレンズなので、当然ながらデジタルカメラ前提だ。おそらくフランジバックと被写界深度の都合でF16を選択したものと思われるが、F8あたりで上手に調整できなかったのだろうか。いっそ、LM-EA7やライカMヘリコイドアダプターとの組み合わせを前提に、絞り穴を大きくしたGIZMON Utulens PROなんて出てこないだろうか。