EIZO ColorEdge CX270-CN
いまどき液晶モニターの修理は流行らない

EIZO ColorEdge CX270-CN 写真・文=澤村 徹

 

EIZOはパソコン用モニターのトップメーカーだ。ハードウェアキャリブレーション対応のColorEdgeシリーズは、デジタルカメラユーザー憧れの製品であろう。デジタルで写真に本気で取り組むとき、カラーマネージメント環境は欠かせないからだ。そんなデジタルカメラを使っているフォトグラファーに知ってほしい話がある。5年半使っていたEIZO ColorEdge CX270-CNが壊れた。映像がまったく映らない。そしてメーカーに修理を依頼すると、修理できないという。修理サービス終了前だが、パネルが不足して直せないというのだ。プロ仕様の液晶モニターが5年少々で修理不能。これはEIZO製品を検討している人にとって少なからず衝撃的だろう。無論、モニター故障のひとつの事例にすぎないが、高額商品ゆえに看過できない部分も多い。事の顛末をレポートしよう。

 

筆者は若い頃、パソコン誌のライターをしていた。当時はCRTモニターから液晶モニターへの過渡期で、色々なメーカーが液晶モニターを製造発売していた。当時の認識としては、モニターはもっとも買い換え頻度の低い周辺機器だから、ケチらずいいものを買った方がいいという考えが一般的だった。モニターはそうそう壊れるものではない。買い換えるとしたら、サイズアップのときぐらいだ。

さて、私物のEIZO ColorEdge CX270-CNだが、実のところ故障は2回目だ。このモニターを購入したのは2013年6月。最初の故障はちょうど5年たった2018年7月だった。ColorEdgeシリーズの製品保証は5年なので、1ヶ月の差で有償修理になってしまった。まるでソニータイマーだ。

1度目の故障はブラックアウトだった。メーカーに修理に出すと、不具合を再現できないとそのまま戻ってきた。たしかに戻ってきたモニターをパソコンにつなぐと映像が表示される。液晶モニターなんて電源スイッチと信号切り替えぐらいしか操作のしようがないのだが、あのときは何をしても映像が表示できなかった。それが修理もせずに復活している。あのブラックアウトは一体何だったのか。腑に落ちにないまま、検査料を支払った。

それから半年たった2019年1月、前触れもなくまたモニターがブラックアウトした。前回のことがあったので、今回は修理依頼の前に徹底的に調べた。パソコンのグラフィックボードを交換し、DVI-IケーブルとHDMIケーブルの両方を試し、さらには別のノートパソコンもつないでみた。思い付くことすべてを試したが、まったく映像が映らない。修理を依頼すると、さすがに今回は不具合を再現できたようだ。液晶パネル要交換、重傷というか瀕死である。

 

問題はここからだ。修理サービス対応期間中だが、すでに液晶パネルがない。ついてはパネル交換代で代替機種に買い換えてくれ、と提案してきたのだ。こう書くと何やらお得に感じるかもしれないが、パネル交換代は94,000円、消費税込みで10万円超えである。数万円足せばフツーにColorEdgeの新品が買える額だ。しかも機種が変わると遮光フードも買い換えになるため、かなり手痛い出費である。

加えて、代替機種というのが何とも微妙なのだ。所有しているColorEdge CX270-CNはコレクションセンサー内蔵機種なのだが、代替機種はセンサーなしのColorEdge CS2730だという。モニターサイズや解像度は同じだが、機能的にダウングレードだ。つまり、「修理はできないけど、パネル交換代でワンランク下の新品にしてやる」という提案なのだ。ColorEdge CS2730を素で買うより27,000円ほどお得だが、別途遮光フード代がかかる。機能性が落ちて無駄に遮光フードの買い換えを迫られて、ユーザー的に何らメリットのない提案である。パネルの在庫を切らしたのはメーカーの不手際なのに、ずいぶんとユーザーに不利な条件ではないか。プロユースの商品なのだから、頼むからフツーに修理できる体制を整えてくれよ、というのが偽らざる気持ちだ。

 

今回の一件で、考えを改めねばと思ったことがふたつある。まずモニターが長持ちするという認識。これは過去のもののようだ。これまでEIZO M170-WT(2005年購入)、三菱電機 RDT261WH(2006年購入)、EIZO ColorEdge CX270-CN(2013年購入)と3台の液晶モニターを使ってきたが、うち三菱電機 RDT261WHとEIZO ColorEdge CX270-CNは映像が一切映らないという壊れ方をした。表示が不安定になるとか、色が褪せるとかではない。3台中2台がブラックアウトだ。CRTモニターと比べてずいぶんともろい印象を受ける。壊れた2台はハードウェアキャリブレーションをして使っていたのだが、もしかするとこのキャリブレーションがモニターに負荷をかけていた、なんてことがあるのだろうか。これまでモニターは長持ちするという前提でカラーマネージメント環境にはそれなりにお金をかけてきた。ただ、こうもモノ持ちがわるいようでは低価格製品を使い倒す方向も検討した方がよさそうだ。

ふたつめは、液晶モニターの修理は事実上成立しないという点だ。家電ならば何年も部品をキープしてくれるが、パソコンやモバイルデバイスはさにあらず。アップル製品を修理に出すと新品交換で戻ってくるという話はよく耳にする。今や現行製品に交換する手法は中国製品でもおなじみだ。デジタル機器は日進月歩なので、液晶モニターも長きにわたってパネルを確保するのは難しいことなのかもしれない。

ただ、修理サービス終了前にパネル不足を伝えてくるようだと、EIZOの製品については修理をして使い続けるという選択肢がほぼ絶望的に思える。壊れたら最後、即買い換えだ。EIZOはハードウェアキャリブレーションセンサーを内蔵したオールインワンモデルを発売しているが、こうした製品もパネル交換不可で買い換えを余儀なくされると思うと、購入を躊躇してしまう。修理しながら長く使うことが難しいとなれば、モニターとキャリブレーションセンサーは別々に揃えた方が経済的だ。

 

製品サイクルの短いデジタル機器は、修理の考え方も従来とは異なってくるだろう。デジタル機器は壊れたら即交換と割り切るのか、粘り腰で修理体制を整えるのか。そのあたりは製品を外から見ているだけでは気付けない。今回、かつて信頼していたブランドの思いがけない対応に接し、高価なデジタル機器は付き合い方が難しいと実感した。