Thypoch Simera 35mm F1.4
日本初上陸の謎レンズに迫る

写真・文=澤村 徹


InterBEEに訪れたのは何年ぶりだろう。地平線の果てまで続く企業ブース。平日初日だというのに会場は人で溢れ、日本語よりも外国語のほうが多く耳に届く。大盛況じゃないか。それに比べて……、いや、皆まで言うまい。今日は日本初上陸のアレを見に来たのだ。

盛況のInterBEE。CP+と違って、レンズやカメラよりシステムの展示が多い印象。メカ好きにはちょっと物足りない。


Thypoch Simera 35mm F1.4(および28mm F1.4)が最近SNSなどで話題になっている。ライカ用の中国製レンズ。マクロスイターのVisifocusみたいな被写界深度目盛りを搭載し、一躍有名になった。このレンズがInterBEEで展示されるという情報を入手した。これは見に行かねば。

目指すは6305、DZOFILMのブース。DZOFILMは中国・深圳のシネレンズメーカーで、Thypochのレンズの製造元なのだろう。小さいブースにはすでに人だかりができており、人と人の隙間から覗くと、シネレンズが何本も並んでいる。シネレンズが並んでいる。シネレンズしか並んでいない。Thypochはどこだ?

DZOFILMのスタッフは皆中国の人たちみたいだ。気後れしていると、日本語のわかるスタッフがやってきた。

「Thypochのレンズはありますか?」

そう訊きたかったのだが、言葉に詰まる。Thypoch、何と発音すればいいのか。そもそも何語なんだ!? いや何語でもいい。読み方がまるでわからん。しかたないので首から提げたライカを指さす。

「ライカ用のレンズが展示されていると聞いてやってきました」

どうだ、これならわかるだろう。しかし、スタッフは首を傾げる。

「ら、らい……なんですか?」

ライカは世界共通語、なんて言ったのは誰だよ。ここは映像の祭典InterBEE。CP+ではない。ライカが通じない世界線。身振り手振りでアレコレ伝えると、ひとりの女性スタッフが「M mount!」と手を打った。そうそれだよそれ! 彼女は奥から化粧箱に入ったレンズを持ってきてくれた。ついにThypoch Simera 35mm F1.4とご対面である。

これがThypochのSimera 35mm F1.4。おそらく日本初公開のはず。Visifocus風の被写界深度目盛りがデザイン的な特徴。金属製の前後キャップが付属する。


見せてくれたのはシルバーのSimera 35mm F1.4。1/3段刻みの絞りリングを回すと、鏡胴にオレンジのドットが増えていく。ケルン社のマクロスイターを彷彿とさせるギミックだ。レンズ先端のバヨネットに角型のメタルフードが装着可能。このフードの上から被せるフロントキャップも付属する。ヘリコイドや絞りリングの動きが滑らかで、中国製レンズもずいぶんと機構部分の仕上げが良くなった印象を受けた。

レンズの最短は0.45メートル。0.7メートルのところにクリックがあり、距離計連動する範囲が速やかに把握できる。絞りは1/3段刻み。バヨネット式のメタルフードはレンジファインダー用のスリット(のぞき穴)がある。

ピントリングはフォーカシングレバーを備える。被写界深度目盛りのギミックもしかり、オールドレンズファンを狙い撃ちにきてる。

ライカM11にSimera 35mm F1.4を装着。フロントヘビーになることなく、収まりがいい。ブラックの鏡胴もラインアップしている。


軽く試写してみたところ、開放はさほど滲まず、正統派の写りを目指したレンズだと実感できた。F2.8で切れ味がよくなり、F4がピークといった感じ。前後のボケもいい。28mm F1.4も試したくなる。

Leica M11 + Simera 35mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/250秒 ISO64 AWB RAW 会場内で開放撮影してみた。開放から切れ味よく、立体感のある写りだ。

Leica M11 + Simera 35mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/125秒 ISO64 AWB RAW けっしてクセ玉志向ではなく、ちゃんと写るレンズに仕上がっている。メインレンズに使えそうな印象だった。


すでに欧米の量販店では予約受付中。アメリカのB&Hのホームページを見たところ、35mmと28mm、ブラックとシルバー、どれも699ドルだった。28mm F1.4も12月には販売できるという。日本では2ndfocus(E&Iクリエイション株式会社)が代理店になるみたい。安いレンズではないので、代理店経由の方が安心だろうか。急ぎ実物を見たい人はInterBEE、6305のDZOFILMのブースへ。

Thypoch
2ndfocus