WOTANCRAFT TROOPER
ヴォータンクラフト トゥルーパーを1ヶ月使ってみた

Wotancraft Trooper Large 写真・文=澤村 徹

 

WotancraftのTrooperを一ヶ月ほど使ってみた。Wotancraft(ヴォータンクラフト)は台湾のカメラバッグメーカーで、日本ではオリエンタルホビーが代理店になっている。以前から気になっていたカメラバッグなのだが、CP+2019で現物を試し、すっかり気に入ってしまった。普段使いのメインカメラバッグとして一ヶ月ほど使ってみたので、その使用感をレポートしたい。なお、Trooper(トゥルーパー)の詳細仕様はオリエンタルホビーのホームページで確認してほしい。

まず、筆者のメインカメラバッグの条件を列挙しておこう。

●基本はシティーユース
街並みのスナップが主な撮影内容だ。いわゆるアウトドアではないため、バッグのクッション性能はそれほど求めていない。街中で溶け込みやすいデザインを重視したい。

●カメラ2台と交換レンズ数本
携行する機材は、レンズ付きのミラーレスおよびデジタルM型ライカが1~2台、交換レンズは2本程度といったところだ。デジタル一眼レフを持ち出すことはほぼない。手持ち撮影がメインなので、三脚を携行することはまれだ。

●ノートパソコンの収納スペース
泊まりの撮影ではノートパソコンが必須。13.5インチ液晶のノートパソコンを使っており、それを収納できるスペースを確保したい。

●ペットボトルを外側に収納
普段の撮影は街中を数時間歩き続ける。水分補給のためにペットボトルが欠かせない。ただし、カメラと同じスペースに水気のあるものを収納するのは抵抗感がある。バッグの外部ポケットにペットボトルを収納したい。

●使用済み雨具をどうするか
使用済みの折り畳み傘を収納するスペースがほしい。もちろん、カメラと同じスペースに仕舞うのは論外。機材を濡らすことなく、使用済みの雨具を携行できる工夫がほしい。

ざっとこんなところだろう。さあ、WotancraftのTrooperはこれらの条件を満たしてくれるのか。まずは外観からだ。ご覧の通り、Trooperはミリタリーに全フリした姿が潔い。ムラのあるカーキ色のファブリック、無骨なレザーベルト、外観はミリタリーバッグそのものだ。昨今、デザイン性を重視したカメラバッグはめずらしくないが、ここまで振り切った仕様はWotancraftぐらいだろう。バランスをとって凡庸になることなく、プロトタイプをそのまま製品化したようなスタイルがたまらない。

ファブリックは一見すると帆布のようだが、独自加工したコーデュラナイロンだ。通常、コーデュラナイロンは生地メーカーが用意したカラーバリエーションをそのまま使って製品化することが多いという。しかし、Wotancraftは無地のコーデュラナイロンを購入し、染色、コーティングといった独自加工を施している。軽量、強靱、撥水という特長を備えつつ、ビンテージ感のあるファブリックを生み出した。マテリアルから徹底的にこだわったカメラバッグだ。

 

見た目はウォッシュをかけた帆布のようだが、独自加工を施したコーデュラナイロンだ。軽量な上に、金属で引っ掻いても破れない強靱さを誇る。

 

厚手カウハイドのダブルレザーストラップを装備。ギボシから外すとフラップが開閉できる。

 

金具類はビンテージ加工が施してある。両サイドのDカンにはブランド名が刻印してあった。

 

フラップはマグネットストッパーによる開閉が可能。レザーベルトを外したままでもフラップがバタつくことはない。ベロクロのようにバリバリと音がしない点もいい。

 

このTrooperというシリーズは5サイズ展開で、Extra Small、Small、Medium、Large、Extra Largeと分かれている。カメラバッグでこれだけ細分化しているのはめずらしい。今回は普段使いのメインカメラバッグとして使いたいので、Largeを選んだ。Largeの横幅は42cm。電車で座って膝の上にバッグを載せた際、これ以上大きいと隣の人の腿に当たってしまう。電車移動のあるシティーユースではこのサイズが限界だろう。

収納力については筆者のニーズを申し分なく叶えてくれた。レンズの付きのボディ2台、交換レンズ数本を無理なく収納できる。13.5インチノートパソコンの取り出しもスムーズだ。ただし、Largeサイズはメインスペースの奥行きが13cmしかない。横幅のあるカメラボディだと、収納時にバッグが膨らむことがあった。カメラを収納する向きは、カメラのボディサイズや装着したレンズに応じて工夫が必要だろう。

しかしながら、バッグの収納力はさほど問題ではない。大きなバッグならたくさん詰め込める。それだけのことだ。大切なのは、しかるべき機材をストレスなく携行できるかだ。筆者の場合は、レンズを付けたデジタルM型ライカ1台、交換レンズ1本、ノートパソコン、そして文房具といった機材一式を目安にしている。一見するとさしたる量ではないが、デジタルM型ライカがけっこうズシリとくる。その重量感はα7IIIが子供に思えるほどだ。そこにノートパソコンが加わるのだから、長時間持ち歩くと肩や腰に負担がかかる。この機材をTrooper Largeで終日持ち歩いたところ、普段より明らかに軽快だった。これまでライカを持ち出すと重くて閉口することが多かったが、Trooper Largeだと重さを気にせず持ち歩けるのだ。気になってバッグの重量を調べたところ、Trooper Largeは1.4kg、これまで使っていたバッグは3.0kgもあった。後者はFilsonというアメリカのブランドのバッグにインナークッションを入れたものだ。厚手の帆布にレザーベルト、真鍮製の大型ファスナーといった具合に、バッグ自体がそれなりに重量がある。軽量なコーデュラナイロンを使ったTrooperは、バッグ自体が軽く、よりたくさんの機材をストレスなく携行できるわけだ。

 

ミラーレスやライカなら2台が余裕で入る。ノートパソコンもデバイダーで仕切られたスペースに収納できる。

 

デバイダーのベロクロはフラットなタイプを採用している。ノーマルのベロクロは野暮ったい印象を否めないが、こうした細部へのこだわりが洗練された印象を高めている。

 

今回収納した機材一式だ。正直なところ、これだけ詰め込むと重くて持ち歩くのはつらい。ここからノートパソコンを省いた機材が実質的な携行重量の上限だと思う。

 

Trooperにはクッションを封入した厚手のショルダーパッドが付属している。クッションのおかげでバッグを重量を適度に軽減してくれる。ホックボタンでショルダーベルトにしっかりと固定され、バッグを体の前後に移動してもショルダーパッドはズレない。これまで色々なショルダーパッドを試してきたが、使いやすさはまちがいなく上位に属するだろう。

ただし、個人的な使用感としては少々微妙な印象を受けた。このパッドは確実に重量を分散してくれる。事実、これまで携行してすぐさま重さに根を上げていたような機材も、このパッドのおかげで長時間携行できた。肩への食い込みを確実に和らげてくれる。にも関わらず、バッグを提げて小一時間で肩が凝ってくるのだ。食い込みはない。でも肩は凝る。何とも名状しがたいジレンマだ。どうもパッドが厚手のせいでゴロッとした存在感が際立ち、機材の重量を問わず肩が凝ってしまうようだ。とりあえずはパッドの位置、ショルダーベルトの長さを調整して、ベストセッティングを探してみたい。

 

ショルダーパッドはホックボタンで着脱できる。ショルダーベルト自体も着脱式で、好みのものと交換することが可能だ。

 

ラテックスフォームを封入しており、クッション性は申し分ない。3本のステッチが入り、自然と肩に沿うように配慮している。

 

このカメラバッグを気に入っている最大のポイントは、両サイドにポケットが付いていることだ。筆者はカメラバッグのサイドポケット推奨派である。ペットボトルや濡れた折り畳み傘など、水気のあるものを携行するため、サイドポケットは欠かせない。カメラと同じメインスペースにペットボトルを入れるなど論外だ。

Trooper Largeのサイドポケットは300mlのペットボトルがちょうど入るサイズだった。500mlも無理をすれば入るが、カメラの脇であまりムチャはしたくない。ちなみに、このサイドポケットは隠しポケットになっていて、バッグ正面からだとポケットがあることに気付かない。この攻めのギミックは実に高評価だ。カメラバッグのサイドポケットというと、ドンケスタイルを踏襲したものが多い。ドンケに似せないという工夫は大いに評価したいところだ。

折り畳み傘はメインフラップのレザーベルトに固定できる。使用前はバッグの中に仕舞っておき、使用後はレザーベルトでバッグの外側に固定するわけだ。小さい折り畳み傘をサイドポケットに収納するという選択肢もあるだろう。とりあえずは飲料と傘という二大水分を、カメラと離して携行できるのはありがたい。

 

隠しポケットにペットボトル(300ml)を収納したところ。ポケットの間口に余裕がないので、大きいものは出し入れに難儀する。

 

ダブルレザーストラップに折り畳み傘を装着したところ。コーデュラナイロンは撥水性があり、内部に水が染み込む心配は少ない。

 

ジッツオトラベラー(GK0545T-82TQD)を装着してみた。三脚を付けたままのフラップ開閉は現実的ではないが、携行スタイルとしては悪くない。

 

Trooperを使い込み、このメーカーはわかってるなあと思った点をふたつ挙げておこう。ひとつめはグラブハンドルだ。バッグの上部に付いている小さなハンドルである。ショルダーバッグの場合、このハンドルがないと長いショルダーベルトでぶら下げるようにバッグを持ち上げるしかない。機材の入ったカメラバッグをブラブラと持ち上げるなんてどうにも心臓に悪い。ショルダータイプのカメラバッグにはハンドル必須だ。

ふたつめはラゲッジハンドルスロットだ。この名称ではピンと来ないかもしれないが、キャリーケースのハンドルにバッグを通すためのアレだ。ビジネスバッグではおなじみの仕様だが、カメラバッグだと少数派だろう。単にハンドルスロットを付けるだけでなく、裏面がベロクロになっていて確実に固定できる。重い機材が入ってるからこそ、キャリケースのハンドルにしっかり固定する必要があるわけだ。活用シーンをていねいにシミュレートし、実用的なスタイルで搭載している点が好印象だ。

 

フラップ上部にあるグラブハンドル。ショルダーバッグにこれを付けてくれるメーカーは良心的だと思う。

 

ラゲッジハンドルスロットは裏面がベロクロになっている。キャリーケースを伴う海外ロケで役立ってくれそうだ。

 

Trooperは騎兵という意味。カーキはどう見たってミリタリーだ。アフリカ旅行に日和ったりしないところがいい。

 

最後にデザイン性について改めて触れておこう。Wotancraftはミリタリーをよく研究していると思う。ミリタリーバッグを単に真似るのではなく、カメラバッグ上に巧みに再構築している。ミリタリー特有のタフネスも備えている点が特にすばらしい。Wotancraftのラインアップを見ていると、同社のデザイナーはスイスミリタリーが好きなのかなあという気がしてくる。ブレッドバッグベースのライカ用ショルダーバッグとか作ってくれないだろうか、とおねだりしつつ筆を擱くことにしよう。

 

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